| <<前日の日記へ | 翌日の日記へ>> |
| 2004/3/19 |
 |
『博士の愛した数式』
著 者:小川洋子 出版社:新潮社
発行日:2003年08月 本体価格:1,500円
|
大変ご無沙汰しております。久しぶりにこのコーナーでみなさんとお会いできる機会をいただきました。約1年ぶりの登場となります【瑞】です。とはいえ、このコーナーも今日で終了とのこと。幾分の寂しさは感じますが、変化のためには休養期間も必要なこと。スタッフへはこの場をお借りしてエールを送らせていただきます。
みなさんにオススメする最後の1冊を何にしようかということは本当に悩ましい問題でした。手帳に書きとめてあるオールタイムベストを眺めて、散々考えあぐねた結果引っ張り出した1冊がこの『博士の愛した数式』です。もう充分に世間の評価を集めた本なのでどうしても今さら感が漂ってしまいますが、この本を読んだ瞬間は「あぁ、読書日記に書きたい!」と心から思ったものでした。ついでに言うと、昨年の伊坂幸太郎さんのブレイクっぷりを見るにつけ言いたくてしょうがないことがあったので、今言います。「ほらね、言ったでしょ。」
さてさて『博士の愛した数式』に話を戻します。
この作品を印象深いものにしたのは、読後読み手を包み込む圧倒的な幸福感の存在でした。喜怒哀楽、どの感情とも違う不思議な感覚。こんなのは初めてです。あらすじについては、内容情報の方にお任せしましょう。ですがここに書いてある“ラブストーリー”という点についてはご注意ください。“恋愛”と“人を愛おしいと思い慈しむ”という事の違いをここまでわかりやすく描いてくれた小説は見たことがありません。そしてここで書かれているのはまさしくこの愛おしいという感情。“ラブストーリー”とオビに書かれているお陰で、恋愛もの嫌いの読者に届いていないとしたらものすごく残念です。
博士にとっての重要な言葉である「数」は、世の中の偶然を手品のように必然に変えていきます。無機質な物の代名詞のように捉えられていた「数」がこんなに暖かい存在になることがあるなんて、かつて想像したことがあったでしょうか?
博士は数字一つ一つを壊れ物のように大切に扱い、数々の数学上の発見を芸術作品のように語り、ルート君へ溢れんばかりの愛情を注ぎます。でも、何よりもこの小説の登場人物たちが愛おしいと思っているのは、博士とともに生きている“今”であり、博士が記憶に残したいと切に願う思い出(それはちっちゃなメモなんでしょうけど)なのです。しかし残酷な時は博士から記憶の全てを奪い取っていきます。さらさらとこぼれ落ちる砂のように、つかめどもつかめども手の中に残るのはわずかなものばかり。それだからこそ、「私」とルートの中に残るものは大きく価値のあるものなのでしょう。そうか、だから人は他者と関わって生きていくのですね。
読書日記、そして楽天ブックスに携わった日々でみなさんに多くの本をお薦めして参りました。逆に読者の方々から本をお薦めいただくこともありました。そうかと思えば本が運んだ出会いもありました。それらすべての出会いと経験に改めて感謝をしています。またお目にかかる日を心待ちにして最後の読書日記を閉じようと思います。 |
|
【楽天ブックススタッフ 瑞】 |
|