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読書日記 2004年3月31日更新
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2003/6/27
『香水』

著 者:パトリック・ジュースキント/池内紀
出版社:文藝春秋
発行日:2003年06月
本体価格:733円
時は十八世紀。場所はパリ。生まれながらにして「匂い」を持たない男、グリヌイユ。その不幸な生い立ちは、嬰児殺しを重ねる母親から生まれ落ちたことに端を発する。生まれてすぐに生命の危険にさらされ、辛くも一生を得たのも束の間、孤児としての困窮生活がはじまる。彼は、自ら発する「匂い」を持たなかったが、すべての「匂い」を嗅ぎわけ記憶することができる特異な能力を持っていた。見えないものの所在を嗅ぎつける、その異常な嗅覚。香水ならば、その成分までも、言い当てることができる鼻。その奇妙な力を持った孤児は、皮なめし職人に売り渡され、お定まりのように、重労働の徒弟生活を送ることとなる。あふれかえるような匂いの洪水の街、パリ。この世で最大の臭気の世界。彼はいかにして、ここで天職たる香水調合師の見習いの座を手に入れたのか。やがて戦慄すべき殺人者となる彼の、香りに彩られた奇妙な生涯が始まる。

この行方の知れない物語は、一体、どこへ向かっていくのだろう。ページをめくり、物語を追いながら、奇妙な焦燥感、浮き足立つ気持ちを抑えがたくなっていきました。連ねられた言葉たちから想起される匂いは、芳しい香りだけではなく、異臭、悪臭、忌まわしい臭気、に想像がかき立てられます。麝香、白檀、硫黄、樟脳、ベルガモット、月下香、羊の腎臓脂、腐った獣の皮、言語化不能な匂いのイメージが、固有名詞から沸き上がっていきます。言葉のメタファーは想像を強く刺激して、頭の中に未知の匂いを生じせしめます。「影をなくした男」が忌避されるように、「匂い」を持たない男もまた、人間として不可欠な何かを失った存在なのでしょう。主人公、ジャン=パティスト・グリヌイユとは、一体、何者なのか。匂いのカタログを記憶の中に納めることのできる男。彼は「匂い」を調合し、それを自らの身にまといます。まともな人間としての、常軌を失っていく男。物語は狂気の淵へとスピードを上げながら突き進み、人倫を超えた悪徳の果ての勝利を迎えます。そして、突拍子もない結末。この男の数奇な運命に対して、深い感慨を覚えるか、というと、はなはだ疑問です。この感情移入不可能な主人公に、多少なりとも歓心を覚えたか。果たしてどうであろう。ピカレスク・ロマンとはこうしたものなのか。不思議です。いや、あまりにも卑近じゃない。物語の焦点が見えず、気持ちを通わせることができない。心をかき乱されたままで放置される感覚は、同じジュースキントの『ゾマーさんのこと』でも感じたものですが(随分とトーンは違いますね)、この蟲惑的な幻想譚の中では、輝くところがあったか。非常に面白い本なのですが、なんだか、そわそわと据わりの悪い思いがする稀有な一冊。刺激のない日常に喝、そんな感じです。

電信柱にオオカミのオシッコの匂いをつけておいて、散歩にきた犬たちがどういう反応を示すか、という実験についての話を聞いたことがあります。「今まで感じたことのないほどの脅威」を感じとった犬たちの驚愕を思うと、なにやら可哀相な気がするのですが、嗅覚の鋭い彼らにとっての「匂い」の意味に、興味を覚えたものでした。残された匂い、が、なんらかの意味を持つような筋立は、まま物語の中にはあるもので、遠い記憶が呼び覚まされたり、残像のような残り香が、得恋のはじまりとなるロマンスもあるようです。犬ならずとも「匂い」の意味は大きいものなのでしょう。「匂い」にまつわる物語では、原田宗典さんの『スメル男』や、井上夢人さんの『オルファクトグラム』などが思い浮かびます。精神的ショックで嗅覚が麻痺した青年の奇妙な冒険譚と、匂いが「見える」ようになった青年の物語。何かを失い、別の何かを得る。復活の物語なので、どちらも面白かった記憶があります。同じ「匂い」という題材ですが、雰囲気は随分と違いますね。

外国の「匂い」。その国、特有の匂い、というものが海外旅行の記憶として残っています。行ったことのない国の「文学」には、未知の香りを楽しむような感覚があります。十八世紀のパリの街頭の匂いは、果してどのようなものか。読書で想像してみるのも面白いものかと思います。最近、『停電の夜に』や『朗読者』なども文庫化されていますが、こうした評判の高い、ちょっと雰囲気のある外国文学が文庫化されるのって嬉しいですね。
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