吉本(現在は「よしもと」)ばなな作品はほぼコンプリートしている私ですが、夏になると読みたくなるのがこの『N・P』です。「N・P」とは、物語中に登場する、97本の短編が収録された作品のタイトルで、「ノース・ポイント」の略。この作品の著者である高瀬皿男は、48歳で自殺しており、また、主人公・風美が高校生のときにつきあっていた恋人・庄司も、この作品の98話目を訳している最中に自ら命を絶っています。風美は、かつて庄司とともに参加したパーティーで出会い、強烈な印象を受けた高瀬皿男の2人の遺児・咲と乙彦に5年後偶然再会。そして、狂信的な「N・P」マニアだという翠の存在を知り、運命の流れに巻き込まれていくのです。
ひと夏の出会いと別れの物語なので、物語中には印象的な夏の風景がたくさん出てきます。しかも、それらの風景は全て「食べ物」と結びついているのです。それは路上に座って飲む、自販機で買った缶のウーロン茶だったり、こっそり夜中に忍び込んだマンションの屋上で、紙コップで飲むワインだったり、初めて家を訪ねるときにおみやげに買っていくエクレアだったり。初めて咲と風美が一緒に食事をするシーンの「サンドイッチとサラダ」や、翠が作って風美が食べて大変なことになる「ビーフシチューとパン」は、なぜかとてつもなくおいしそうなものに思えたものです。乙彦と風美が海辺でバーベキューして、ホイルに包んで焼いて食べる某ファストフード店のチキンですら、なんだか特別なもののようでした。
この作品自体が、断片的なシーンを繋ぎ合わせたような構成になっているのですが、これらの食べ物のシーンも含めて、全体的なストーリーよりもシーンごとの印象が強すぎて肝心なストーリーの印象はやや薄いです。でも、全体的に感じる夏のまぶしい日差しとか、むっとした熱い空気とか、夏の雰囲気を体感したくなるから、毎回夏になると読み返したくなるのかも知れません。
それにしても、本の現物が今目の前にないのにここまで詳細を覚えているというのは、自分でも驚きでした。この作品に漂う雰囲気が好きで、何度も何度も読み返したのは記憶にあるのですが、それにしてもなぜ?と思ったら、この本の初版は1990年12月。その頃は家族でカナダに住んでいたので、日本の本は全て航空便で取り寄せて手に入れていたのです。日本語で読める本は1冊1冊がとても貴重で、一文字一文字を真剣に読み込んでいたのだな、と改めて思い出しました。
今では、そこまで夢中になって本を読むことはなくなってしまったような気がします。せっかく本屋という仕事に就いているのに、こんなことでは勿体ない!と、改めて本の虫になろうと決意した今日この頃なのでした。 |