| <<前日の日記へ | 翌日の日記へ>> |
| 2003/6/18 |
 |
『トーキョー・キッチン』
著 者:小林紀雄 出版社:リトル・モア
発行日:2000年02月 本体価格:1,300円
|
『TOKYO DINING』という本が出ました。「クリエイターの食生活&プライベートダイニング」ということで、写真家やモデル、劇作家、漫画家、スタイリスト、と色々なジャンルの人たちの「台所」と「食卓」の写真集です。生活感はあったり、なかったり、なのですが、やっぱり、広いー、センスあるー、お金あるー、という感じがいたしまして、こんな生活できたら良いよね、というところで感想が終始してしまいました。調理器具マニアの私としては、皆さんどんな器具を使われているのだろう、というところに関心があったのですが、そのあたり、あまり焦点があたっていなかったのは残念です。『大橋歩の生活術』という、イラストレーター大橋歩さんのハイセンスな生活をまるまる1冊にした素敵な本がありますが、本当は1人1冊でも良いのにね、と思うところです。アーティストの方たちには、作品と同じように「食」や「生活」に対するこだわりがあるようで、更にもう一歩、掘り下げられていると良かったかなと思いました。とはいえ、第一線で活躍されている方たちの、生活が覗き見できる、なかなか面白い企画の本ではないかと思います。
この本を読んでいて、小林キユウさんの『TOYOKO KITCHIN』という本を思い出しました。東京に暮らす若者たちの一人暮らし(まれに二人)の台所と、食生活を映した写真とインタビュー集。有名人ではない、ごく普通の人たちのインタビュー集です。有名であろうと、なかろうと、食事はするし、それぞれこだわりの生活はある。瀟洒な住まい、とは言いがたい「二十代の部屋」で、その食卓で、何を思うのか。派遣社員、看護婦、声優志望、アルバイト、などなど、皆、駆け出しの人たちが、一人の時間を生きています。著者の小林さんが、色々な職業の若者たちの部屋を訪ねて、その生活観を聞き出しながら、料理を作ってもらうというものなのですが、なかなか、味わいの深いやりとりが交わされていきます。私のお気に入りは、上京4年目、22歳のアルバイト青年、上田君。「なんとなく東京に来てみたくて上京した」という彼は、ステーキハウスでアルバイトをしています。月13万円の収入で暮らす彼の、なんだかのほほんとした暮らしぶりが、ちょっと良かったです。何分、作れる料理が、「ホットケーキ」「ベーコンとタマネギのパスタ」「おかゆ」の3種類しかないという彼(この本には、上田君のホットケーキのレシピもついています)。隣室と窓を共有しているという(どういう状況なんだ)、狭い部屋に置いたビールのケースを逆さにしたテーブルで、ホットケーキを箸で食べている姿を田舎のご両親がご覧になったら、不憫、に思うのだろうなあ。とはいえ、得意満面にホットケーキをターンさせる写真がなんだかすごくいい。彼曰く、ホットケーキを作るには「ホテルニューオータニ」ブランドの粉が一番良いそうです。でも、お金がないからめったに買えないとのこと。ほんと、奢ってあげるから、なんでもお腹一杯食べなさい!と言いたくなります。あぶなっかしいのだけれど、でも、なんかちょっと羨ましくもある時間を、彼が生きているなあ、と思いました。「広々としてて、収納とかあって、・・・そういうキッチンにいつか住んでみたいですね」と、彼が最後に一言。この本、すごく好きなのです。
著者の小林さんは、若い時間に体験するであろう、不安や焦燥や孤独、または希望や未来への展望といったものを、意外とのんびりとしたそれぞれの日常の中から写し撮ります。私は、「上京してきた若者たち」という題材には、あまり親近感がありません。東京生まれ、東京育ちで、東京の学校にずっと通っていました。わりと大きい大学だったので、全国から学生が集まってきていたのですが、友人たちの「東京での下宿生活」には、仄かな憧れを持っていました。精力的に「東京での時間」を行動し続ける彼らは、何か勝負に来た人たちという感もあって、いつも置いていかれそうな気分であったことが思い出されます。この本に登場する人たちは、年齢的には、もうちょっと大人ですが、それでいながら、まだまだゆっくりと若い時間を生きているようで、ギラギラ感もありません。きっとこの狭いキッチンがスタート地点。ここから広い世界がはじまっていくのだと思います。がんばれ若者、という感じです。
小林キユウさんといえば、話題になっていた『バブル・エイジ』という著書もあります。あのバブルの全盛期、就職した若者たちは現在、どうしているのか。大学を卒業してからの十年。山一証券や、そごうなど、経営危機にあった会社に就職した人たちをはじめとして、色々な進路に進んだ人たちへの興味深いインタビュー集。小林さん自身の、銀行員から新聞記者への転身、フリーとなった経緯も語られています。純粋なインタビュー集というよりは、小林さんの物の見方や、考え方が前面に出ている気がして、実はちょっと、濃すぎるなあ、と思うこともあるのですが、いつも入魂の、思い入れの強い作品を作られる方だな、という印象を持っています。 |
|
【楽天ブックススタッフ 知】 |
|