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| 2003/3/25 |
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『火の粉』
著 者:雫井脩介 出版社:幻冬舎
発行日:2003年02月 本体価格:1,600円
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一部ネタバレを含む可能性があります。未読者注意!
マスコミや一般市民が有罪と疑ってかかっていた殺人事件の容疑者に、あっとおどろく無罪判決を下した元裁判官梶間勲。その後退官し息子夫婦と孫に囲まれてそれはそれなりに幸せな余生を送っているはずでした。そんなある日、かつて無罪判決を下した武内が隣に越してくるところから少しずつ梶間家の歯車が狂い始めます。無邪気なほどのいい人さを見せる武内ですが、家族のうちの数人はそのいい人すぎる姿に疑問を抱くようになるのです…
ま、バラ色の人生がいい人から豹変した殺人鬼によってメチャクチャになっていく。。というのは小説でも映画でもよく見られるありふれたストーリーです。あとはその恐怖の演出の仕方がポイントかと思うのですけどいかがでしょう?ひとつ考えられるのはスプラッター系。ひとりひとりが猟奇殺人の対象になっていくのは、ホラー嫌いの私的には最も苦手なパターンです。それから登場人物がぜ〜んぜん犯人の猟奇性に気づいてくれなくて、読んでいるほうがハラハラドキドキのケース。で、これなんかは“ありそうで恐い事が盛りだくさん”なお話しでした。「なるほど。善意を装ってこんなことをしたら、こういう風に人を壊せるのか…」ってな感じです。この本の場合は犯人の登場段階から生理的な不安がつきまといます。読者が感じると共に登場人物もそれを察知して相手を信じ切らない。これが大きな特徴でした。もしべったりこの好意に甘えていたり、恋愛感情が芽生えていたりしたら化けの皮の剥がれた次のステップがもっと恐くなっていたのかもなと思うと少し残念。
そうはいっても、この本はホラーとして読むべきものではないのでしょう。中盤まで「オチが読めるなぁ〜」と半諦め状態で読んでいた私も少し見方をかえて読んでみたらなかなかに奥深いものがありました。そもそも武内は裁判の結果は死刑か無罪かしかなかったのです。かといって死刑判決を下すのは裁判官にとっては非常に重いもの。だとしたら無罪にしてしまおう、そしてこのプレッシャーから逃げ出そう…そんな思いが梶間にあったのです、きっと。そして殺人犯を世に放ったこと、これが裁くものの罪でした。で自分の身に降りかかってくるのが火の粉。読みながらクリスティの『検察側の証人』をふと思い出しました。読後じわじわ効いてきて考えることが増えていく不思議な作品でした。 |
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