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| 2003/1/8 |
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『終戦のローレライ(上)』
著 者:福井晴敏 出版社:講談社
発行日:2002年12月 本体価格:1,700円
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連合軍に無条件降伏したドイツが秘密裏に開発していた究極の兵器「ローレライ」美しい歌声で船を沈める魔女「ローレライ」の名を冠したこの秘密兵器を搭載した帝国海軍の潜水艦「伊507」潜水艦であるにも関わらず、戦艦の主砲が搭載されたこの艦をして、驕敵米国に一矢報いるために、ただ1艦で出撃していく…
と、これだけ聞くと、ありがちな空想戦記物に見えてしまいますが、さにあらず。この作戦は、南方戦線で地獄を見た1人の高級将校が、自らが求める「あるべき終戦の姿」を実現するために独断で立案されたものであり、その裏では恐るべき計画が進行していた…。
一見荒唐無稽な話をリアルにまとめる隅々までに張り巡らされた伏線や、圧倒的に不利な状況下におかれながら艦長の神がかった操艦で米軍を撃破していく海戦シーンは、かわぐちかいじの「沈黙の艦隊」や「ジパング」にハマった人には確実にオススメできます。ただ、それよりも何よりも、既に敗戦が決定している状況下で、生きては帰れぬ船路となることは覚悟の上で「あるべき終戦の姿」に反発し、自らの意志で出撃していく「伊507」国のためと信じて戦場で散っていった兵士や、焼夷弾の雨に理不尽に殺された民間人の犠牲の上に成り立ちながらも、経済の失策に対して何ら責任をとらない政治家と、省の権益を守ることに腐心し、国民に負の遺産を押しつける官僚機構、そして、それらに対して無関心であり続ける国民。かつてと同じ過ちを繰り返す現在の日本を見るにつけ、将校と「伊507」のどちらが正しいかについては様々な見方ができると思いますが、個人的には、少年兵の放った一言こそ、真実があるように思えました。
二段組上下巻の大作ですが、正月休み返上で一気に読んで、読了直後に、たまらず前作である「亡国のイージス」を買いに走りました。
私の文章が拙いせいで、この作品のすばらしさを伝えることができず、もどかしく思いますが、間違いなくここ数年を代表する傑作であると言えると思います。
以下、多少ネタバレがありますので、ご注意下さい。
浅倉大佐なのですが、作者の経歴を考えると、どうしても、機動戦士ガンダム「逆襲のシャア」のシャア大佐を連想してしまいます。(階級も同じだし)何十万もの国民を犠牲にしてでも「あるべき終戦の姿」に固執する浅倉と、「遅かれ早かれ悲しみだけが広がって地球を押し潰す。ならば人類は、自分の手で自分を裁いて贖罪しなければならん。」としてアクシズを地球に落として人類の粛正を目指すシャア。
シャアの考えには全く賛同できないものの、今の日本の状況を考えれば、滅茶苦茶な主張ではあるものの、浅倉の考えには一理あるような気がしてしまいました。戦後の征人が、幸せをつかむたびに心に抱えていく重石。「伊507」の乗員の犠牲のもとに成り立っている自分に問いかけるシーンは考えさせられました。今の日本に、征人のような考えを持っている人がどれほどいるのでしょうか。
ところで、この作品、映画化される可能性が高いと思うのですがどうでしょうか。ただ、実写は予算の関係で難しいと思うので、アニメの場合、浅倉大佐には池田秀一氏をあてて欲しいと思う今日この頃です。 |
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【楽天ブックススタッフ 久】 |
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