ノベルス発売時から評判の高かった小説でしたが、今月文庫になったのを期に読んでみました。ちなみにあらすじは・・ 美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。
殊能さんの小説は以前読んだ『鏡の中は日曜日』に続いて2作目になります。あそこで出てきた石動という探偵が、ずっと出ずっぱりかと思ったらそうじゃないんですね。今回は「ハサミ男」自らが探偵役となり、真犯人を追い詰めます。もちろん、警察は警察でハサミ男を追いかけていますからまあ作品中は探偵だらけ。
あまり書くとネタばれになってしまうので詳しくは書けませんが、この「ハサミ男」という輩は自殺マニアで、しょっちゅう自殺未遂ばかりしています。殺虫剤を飲んだり、タバコを煮詰めてニコチンを抽出してそれを飲んだり…で、毎回失敗して「医者」に馬鹿にされているという人物。本人曰く太っているらしくて、カーテンレールにひもをかけて首を吊ろうとしてカーテンレールが折れてしまった際に「デブは首つりも出来ないってことか…」とぶつぶつつぶやいている絵はなかなか笑えました。そういう繊細な神経の持ち主なので、自分が時間をかけて狙っていたターゲットを他の人間に殺される(それも自分の手口をまねて)なんていうのは耐えられないことなのでしょう。幸か不幸か第一発見者になったという利を活かして犯人追跡をしていきます。
太っていることを気にしていながらも食べることが大好きな「ハサミ男」の食事シーンは丁寧で、どこか楽しそうです。三番目のターゲットのために下調べをしているときに出会ってしまった喫茶店(学芸大学前)のミートパイにはかなりそそられます。会社から近いしモデルがあるんだったらぜひとも行ってみたいもの。仕事のシーンもきっちり書かれていて「来週は殺人の予定があるから、今は真面目に仕事しなきゃ」というモチベーションがどこか滑稽でした。こういった日常を描きながら、殺人者としての心の闇を浮かび上がらせる文章は上手いとしか言いようがありません。大したもんです。
勧善懲罰をこよなく愛する私には、あまり後味がいいとは言えない結末でした。でも二重三重に張り巡らされた作者の罠にはまり「すっかりだまされる」面白さを十分味わいました。あぁミートパイ食べたい。 |