「これがわたしの今年上半期のベストです」というのがオビに書いてある宮部みゆきさんのコメントです。この一言で宮部ファンの私がさけて通れない1冊になってしまいました。出版社戦略大当たり。じゃあもしかして解説を書いてあったりするんじゃなかろうか…と本編とは全く関係のない期待をして本を後ろから読み始めましたが、解説は北上次郎さんでした。まあそれはそれで嬉しいのです。特に中年以降の男性が頑張る小説を読んでもらったら、たった一言の胸への染みどころが増幅されます。
時は1940年夏。いくら歴史に造詣がない私であっても、当時の戦局の予想はつきます。第二次大戦まっただなかなんですよね。主人公のハワードは元弁護士のイギリス人。もう70という歳になっていると戦争に参加することも出来ず心は傷つきます。たたみかけるように息子を失った彼は傷心を癒すためにフランスの片田舎に旅に出ていたのです。ところが戦局は緊張度を高め、帰国を余儀なくされることになりました。さらにそのうえ、国際連盟に勤めるイギリス人の子ども2人をともなって国に帰ることになってしまったところで、ハワードの長い旅路は始まります。
小さな子どものことですので、慣れない旅で具合を悪くしたり駄々をこねたりなんてのは当たり前。体調を見ながら行程を考えているウチにドイツ軍はどんどんフランス国内に侵入してきて、通れない道が増えていきます。さらにそのうえ、旅路のあちらこちらでいきがかり上預かってしまった子どもが同行者となり、彼の旅はより困難なものになっていくのでした。ドイツ軍占領下のフランスではイギリス人の存在は御法度です。(ユダヤ人ももちろんですけど)ハワードはフランス語をしゃべれますし、子どもたちもフランス語には苦労しないので言葉を換え雰囲気を変えることで何度か危機を乗り切ります。
でも戦車を見てはしゃいだり、死体を見たいと大騒ぎをする子どもたちを見ていると読み手もハラハラドキドキさせられます。もちろん「英語をしゃべっちゃダメ!」と何度も念押しを重ねるハワードの苦労は推して知るところ。大きな事件が起こり続けるわけじゃないのに緊張感が漂っているのはそういった理由からなんでしょうね。そんな極限状態とノスタルジックが交互に織り込まれているのがこの小説です。未来に広がる明るさとはちょっと違いますが、読み終わったときにはホッとしたようななんとも言えない安堵感に包まれました。8月は戦争関連本が読まれる時期ですがたまにはこんなのもいかがですか? |