書きにくいことは承知しつつ、またミステリを持ち出してしまいました。文庫になったこの本をうきうき持ち歩いているさなかに、バランスを崩して階段から転落。こういうことがあると、この本のことを思い出すときには絶対に痛い想い出がつきまとうのでしょうね(本編には全く関係ないにも関わらず)
『殉教カテリナ車輪』のデビュー時にはちょっとした衝撃を受けました。
まずタイトルが凄い。殉教?カテリナ?車輪?知識のない私にとってはなんだこりゃという単語の羅列です。それから装丁が渋い。単行本バージョンの渋さを見てください(こんな渋い装丁の本を“派手に売ってください”って言われてもねぇ・・)で、一番びっくりしたのは開いてみると出てくるカラー絵画。凝った作りと言ってしまえばそれまでなのですが、この本は鮎川哲也賞受賞作なのです。「賞に応募する時に自分の描いた絵を添付して応募したのか?なんて大胆なっ!」というのが正直な感想でした。いやぁびっくり。そんな衝撃的な本も遂に文庫化。時の経つのは早いものだなぁ。。。
物語は学芸員による謎解きの様子から始まります。学芸員の矢部が興味を持ったのは東条寺桂という夭折した画家でした。桂の秘密に彩られた人生は矢部の手によってワープロ打ちされ、ミステリ好きの井村に渡されます・・・手記の中には桂と佐野美香との出会い〜奇妙な密室殺人事件の顛末までが書かれていました。ここで重大な小道具として登場するのが「車輪」「殉教」の2枚の絵。矢部は学芸員らしくこの絵の意味を解いていきます。こういうのを図象学(イコノグラフィー)というそうなのですが、この絵解きがまさにミステリ。絵に対して“綺麗”“なんだかわからない”“下手”というくらいの感想を持てなかった私にはこの読み解きは初体験の世界でした。
この小説、とにかく構造が複雑です。手記が作中作になっているし、絵の謎解きも出てくる。すっかりそれに目眩ましされた私はこてこての古典的手法のトリックに見事に騙されてしまったワケなのです。読んでいただけばわかると思いますが、まさしく謎の迷宮に迷った感じ。2つの密室に2つの死体+ひとつの凶器なんて本格ファンには是非おすすめしたい作品です。
飛鳥部さんはこれによって小説と絵画という2種類の自己表現をしているんですね。芸術家冥利に尽きるのではと思うのは私だけでしょうか?なんだかちょっと羨ましい気がします。 |