今度公開される映画『狗神』の作者板東眞砂子さんの作品です。いや、凄かった。昨年末から「近代田舎暮らしもの」と勝手に命名した系統の本をよく読みます。明治・大正・昭和初期あたり、まだ日本古来のしきたりや文化が色濃く残っている所が舞台になっているような小説です。板東さんだと『道祖土家の猿嫁』。『ぼっけえきょうてえ』なんかもそうでした。『ぼっけえきょうてえ』はれっきとしたホラーですが、こういう小説で描かれる闇の怖さ・断絶感が何とも言えません。夜は暗いものだし、雪は深いものなんですよね(妙に納得)「これだけ携帯が普及すると『東京ラブストーリー』みたいなすれ違いって成立しないよね」なんて話がありますが、便利になることでより昔ながらのドラマは現代の舞台からなくなっていくんでしょうね。
さてさて『山妣』です。山妣とはヤマンバの事なのですが、舞台になる雪国には夜、里で子供をさらう山妣の言い伝えがあります。(雪の中から出現しても、雪女ではないことがポイント)そんな里に旅芸人がやってきます。その一人涼之助は実は両性具有、その身体は女形としてもてはやされながら、秘密を知る者には化け物と言われています。不毛の肉体を抱えて苦しむ彼はあることをきっかけに地主の嫁、テルと密通を重ねるようになるのですが、それをきっかけに壮大なる愛憎物語が幕を開けます。時は雪の季節、二人の密通は夫の知るところとなり山に逃げ込んだ涼之助は伝説の山妣に出会います。そして彼女の波乱の人生が語られるわけです。
鉱山のもとで一攫千金を夢見て騙しあう男たち。熊を追いかけるマタギ。そして愛を求める女たち。業の深さというものが尽きることなく描かれていきます。逆に山妣は決して異形の者ではなく、愛を求め、それに破れ山の中で静かに生きることを選んだ女・そして母の姿でした。山と雪に閉ざされた里。現代ではなかなかあり得なくなった舞台ですが、最近の大雪のニュースを聞くとそうとも言えないのかもしれませんね。欲は人を狂わせますが、愛も時として大きく人を狂わせてしまうのだなぁと考えた一作でした。
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