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| 2001/1/11 |
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『松下竜一その仕事(15)砦に拠る』
著 者:松下竜一 出版社:河出書房新社
発行日:2000/01 本体価格:2,800円
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先日、CSで地方局制作の短いドキュメントを見ました。公共事業の見直しが取り沙汰される昨今、過去の事件を振り返るということで、今から約40年前の、九州・下筌ダム建設にかかわる反対闘争についての記録映像。国によるダム建設に伴う土地収用法の執行に対して、村落で唯一のインテリ、隠遁生活を続ける読書三昧の「座敷大学」と呼ばれる旧家の主、室原知幸が反対を標榜、村民を組織して蜂起。「蜂ノ巣城」と呼ばれる砦を築きあげ、機智に富んだ策略で翻弄する。一方、建設省のダム建設指揮を執るのは、当時、三十三歳のエリート、野島虎治。この二人からはじまる遠大な闘争の記録は、まるで物語のような展開。思わず目を奪われた数分間でした。
テレビを見ながら、はて、この事件を扱った本を未読のまま持っていたはず、ということに気づき、本棚を探すことしばし。あった。『砦に拠る』、松下竜一。その市井に生きる生活歌人としての姿、抒情性を湛えた文章に魅了され数年来のファンなのです。松下竜一さんは、市民運動家でもあり、ドキュメントにもその異能を発揮されています。この本では、ダム建設反対闘争史を追いながら、室原知幸氏の複雑な人間像を掘下げ、一代の英雄に祭り上げられた人物の強烈な個性を活写します。堅牢で老獪、智略に富んだ策士。芝居っ気もあり、狂歌を書き散らす「谷間の専制君主」。法廷闘争に破れ、敗軍の将となり、村民たちの信望も失い孤絶の晩年を迎える。やがて、恩讐を越えた建設省との和解、万事が終焉に向かうと思われた間際の急転直下の死。室原氏の膨大な時間と私財を投じた闘争を支えたものは一体、何だったのか。負け続けた記録。一人の男の壮絶な負けっぷりが、現代に何を伝えるのか。読了後、溜息が漏れる記録文学の力作です。 |
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【楽天ブックススタッフ 知】 |
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